なぜ今、越後沼湿原か

 湿原(原野)はかつて北海道の平地にありふれた風景でしたが、いつのまにか次々と消滅し、ここ石狩平野ではそれが短期間で劇的に起こりました。越後沼湿原は、現在僅かに点在するかつての石狩湿原の名残のひとつで、「ホロムイ」を冠する7種の植物(ホロムイ7草)の命名地である幌向(ホロムイ)原野に、残存するいわば最後の砦です。

 沼畔のヨシやフトイから、ヌマガヤやミズゴケの混じる草原まで様々な湿地の植生が混在し、中には札幌都市圏でもこの湿原でしか見られない植物も少なくありません。別の視点からは、開拓の歴史を語る原風景の生き証人とも言え、土地の人々に崇められて管理され、灌漑用水やヨシ・茅が持続的に利用されている“里地”でもあります。このように自然環境の貴重さだけでなく、地域の緑地や環境資源、地域社会や教育の場といった多面的な価値をもっています。

 しかし開発による面積の縮小や排水路敷設などによって地下水位が低下して乾燥化が進み、現在ではササが著しく繁茂し、このまま放置すれば近い将来、貴重な湿原の存続が危ぶまれる状況に至っています。都市と農地と自然地とのはざまで、越後沼湿原は保全の空白地として、かつての自然の標本としてすら留めることさえ容易ならざる状況で、それを看過することは、その土地固有の生き物だけでなく、開拓の歴史と記憶を失うことであるとも感じています。

 越後沼湿原を保全し、その多面的な価値を発揮し続けるためには、まず現状を把握し、その大切さを広く知ってもらうと同時に、どのような保全方策が有効であるかについて知識を重ね、将来の本格的な保全機会にそれを生かすことが必要と考えます。

 
越後沼湿原の特徴

■かつて約55,000haあった石狩湿原、特にホロムイと名のつく7植物の命名地である幌向原野の名残を留める。

■道央都市圏近郊に残存する貴重な生物相

■小規模ながら沼畔から半乾燥草原まで様々なタイプの湿地植生が混在

■水鳥をはじめとする渡り鳥の重要な飛来地。

■開拓の歴史を語る原風景の生き証人として今なお残る“里地”でもある。

■生物多様性、地域の緑地・環境資源、地域社会・教育の場などの多面的な価値をもつ。

■乾燥化の進行とともにササが著しく繁茂し、湿原植物が姿を消しつつあり保護対策が急がれる。 

 
 

地味ながらかつての原野風景の名残